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2005/07/25

(日常)人生談義逍遥

 たかが31歳で人生談義もあるまいという向きもあるかもしれませんが、人生白紙の若い人だからからこそこの話かもしれません。学会の飲み会に出ると若い人はこの話です。歴史学なんて喰えない学問やってこの先どうするのか。
 わたしの父もわたしをみて「馬鹿なやつだ」というふうにみているようですが、わたしだって自分自身がよくわかっていないから何とも答えようがない。たとえていえば、ひらひら飛んでいる蝶を追っかけていた子どもが、夢中のあまりいつの間にか空き地に放置されている土管の中に入ってしまい、身動きできなくなっているという感じでしょうか。ひとは麺麭のみで生きているわけではないから、非合理的な人生を歩まざるを得ない場合もあります。

 多くのふつうの人たちにとって、日常生活はつまらないことの積み重ねであって、実際に日記を書いてみるとそれがよくわかります。毎日記事を書こうとすればすぐに書くねたがなくなってしまうでしょう。「エッセイなど誰でも書ける、エッセイストなど原稿料泥棒みたいなもんだ」というひともいますが、ほんとうはちょっとした文章でも数多く書きこなすのはとても骨の折れる作業なのです。そのくらいに、ふつうは人生はつまらない。
 それでは劇的な人生はすばらしい人生か。もし毎日映画のような大冒険ばかりというなら、人生に退屈しないかもしれませんし、日記のねたにも困らないかもしれません。けれどもそれでは心臓がもたないかもしれず、健康面の危惧があるし、実際にはそもそも日記などの文章を書いている暇なんてないかもしれない。
 だから結局は平々凡々たる人生が丁度よいのかもしれません。そのてん自分の好きなことばかりやっている起伏の多い人生というのはどうでしょうか。ちょっと疲れないだろうか。

 わたしの大叔父は陸軍士官学校で終戦間際の青春を過ごしました。その大叔父がわたしに「いい人生歩んでいる」という。なぜというなら、

せっかく大企業に勤めたって、その企業が潰れるかもしれん。やっぱりやりたいことをやるのがいい。

 と仰る。奨学金という大借金を抱えていても、非常勤生活が長くても、わたしのような学問人生のほうがいいらしい。いまの世の中餓えることはないから。そういえば昨今、どんな不況になっても餓死というニュースはあまりない。
 大叔父は終戦で世の中がひっくり返って、それで軍人としての自分の価値観まで一緒にひっくり返ってしまった。彼の説の当否は別として、乱世をくぐり抜けてきたひとのいうことは違います。わたしとしては自分の歩んできた途がいいのかわるいのか、さっぱりわからないので、わらって「そうですか」としかいえず、とりあえず大叔父のお言葉をありがたく頂戴しておきました。

 しかしながらわたしのような似非学問人生をおくっていると、専任になるまえの非常勤生活が長いので、早死をしてしまうかもしれない。独身ならともかく家族持ちはあぶない。実際非常勤身分のままで家族をもち、生活苦から過労死するひともいます。わたしはといえば、ブログを書ける程度に日常生活にゆとりをもたせ、適度にちからを抜いています。あまり無理せぬように。半分あきらめの老荘の境地に入ったつもりでいるしかない。
 ただ人生ちょっとバクチすぎないか。肉体的・精神的につらいわたしも、少なくとも50歳くらいまでは生きたい。子どもが成人するまでということもあるし、自分の研究のこともある。人生は「どれもこれも」というわけにはいかないというのに。

何もやらずに長生きすることは早死にすることと一緒である。逆に早死にしても濃密な人生ならばそれは長生きしたことと同じである。

 というような意味のことを幕末の武雄鍋島家の当主がいっています。すきな言葉なのですが、どこの文献だったか失念しました(それがわたしらしいところですが)。
 時々このことが頭の中をかすめます。そんなとき無意識に未来の愚息たちの成人姿を想像したりします。

(付記)この稿をかいたあと、杉浦日向子さん死去の報に接しました。ご享年は46歳ということで、わたしの目標とする50歳に4歳も足りません。さきの武雄鍋島家の殿様の言からすれば「ご長命」といえなくもないのでしょうが、もっとたくさんの作品を拝見したかったというのが正直なところです。ご冥福をお祈り申し上げます。

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