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2005/06/02

(江戸時代後期、むらの記録③)時の移ろい―文化から天保へ―

 江戸時代後期、時の移ろいは激しさを増します。関東村落ではどのように記録されているのでしょうか。

 武蔵国入間郡赤尾村(現、埼玉県坂戸市赤尾)では、主に19世紀から百姓の銭遣いが流行って、農業経営より商売経営に力を入れる家が増えました。そのあまり「農作業をやる奴は馬鹿だ」とまで口走る百姓が出てきます。
 むらには「虫送り」という行事があります。「田に虫がつかないように」という祈願を含めて、たいまつを灯して賑やかにかねを叩きながら、みんなで行列を組んで練り歩きます。
 さきに述べた百姓の銭遣いは、この「虫送り」の行事に大きな影響を与えます。

 名主林信海日記、天保13年(1843)7月4日条(林家文書1357)に、「虫送り」の行事についての記述があります。

例年のごとく、たいまつ・鉦(かね)など持ち出し鳴し歩行(ある)く、己(おのれ)子供連れて、高尾山祠脇に出て見るところ、たいまつようやく二十八出る、鉦(かね)などは我家より出候ほかは聞かず、これと云うも農業一統精入らず候ゆえなり、己(おのれ)幼年の頃は、耕作中に万燈のごとく多分出て、鉦・太鼓所々て打鳴し候事を思出し、歎息し帰宅す、

 信海は子どもをつれて林家屋敷脇の「高尾山祠」で虫送りを見物した。すると虫送りのたいまつの灯火が28箇が出てきただけ。鉦(かね)の音は林家の家人が打ち鳴らす以外にない。彼の脳裏にある「幼年の頃」の虫送りの風景では、「万燈」のようなたいまつと、所々にて聞こえる「鉦・太鼓」の音であった。それを「思出し歎息し帰宅」する。
 信海はこの変化の原因として「農業一統精入らず候ゆえ」、つまり「むらが農作業に精を出さなくなったから」と考えました。
 信海の「幼年の頃」というのは、彼の生年が文化元年(1804)ですから、文化年間前半期のことでしょう。したがって、虫送りにみるむらの変化は、19世紀初頭~1840年頃の間、約30年の間でおこったといえます。

 また、旗本の稲垣家にも、関東村落の概況を説明した報告書が残されています。天保13年(1842)付の文書。関東村落を旅するときの弁当についての話題です。

已前ハ小麦餅を弁当に持参し候ところ、文化度米価下落の頃より小麦餅相止め、一同握り飯と相成り、今ハ握飯も大方相止め、多くは行掛りの酒食、終には遊興沙汰に流れ、往古は勿論三十年程已前までは酒食商いたって稀に候ゆえ往来必ず弁当に候処、近年は貧地・孤村にも酒屋の二三軒ずつはこれあり……

 以前は弁当として小麦餅を持参していた。しかし文化年間(19世紀初頭)の米価下落の頃から、小麦餅はやめになり、米の握り飯となった。いまでは握り飯も持ち歩かない。なぜならむらに酒食商があるからである。この酒食店は30年以前(文化7年(1810)年頃)までは稀であった。しかし、「近年」つまり天保13年(1842)頃には、貧村・孤村にさえ酒食店が2~3軒はあるようになった。
 やはりここにも19世紀初頭~19世紀中頃という区切れ目が出てきます。

 幕府財政悪化による度重なる貨幣改鋳は、民間の貨幣経済を活性化させました。この頃でいえば文政・天保の改鋳の影響が大きかったようです。

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コメント

古文書を通してとてもいろいろな事が分かるのでとても
楽しく読ませて頂きました。
特に「虫送り」については、その行事の様子が眼に浮かぶようです。
いずれにしても、今の農村の抱えている問題が江戸末期にもあったのかと思うと、古文書を読む意義を感じます。

投稿: ししまる | 2005/06/04 08:13

古文書を通してとてもいろいろな事が分かるのでとても
楽しく読ませて頂きました。
特に「虫送り」については、その行事の様子が眼に浮かぶようです。
いずれにしても、今の農村の抱えている問題が江戸末期にもあったのかと思うと、古文書を読む意義を感じます。

投稿: ししまる | 2005/06/04 08:14

江戸時代と一言でいっても、260年くらいありますから、当然その中でいろいろなことがあるわけです。江戸時代を静態的にではなく動態的にとらえるとき、つぎの時代に繋がる要素も考えることができると思います。

投稿: 高尾 | 2005/06/04 23:36

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