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2005/03/14

(思い出)ひとと出会う・本と出会う

 わたしが小学生の頃、ミムラクンという青年がよく我が家に遊びにきていました。彼は千葉の薬屋の息で囲碁棋士を志して勉強中でした。そのわりには面長色白で面皰も目立ち、体も細くて何処となく気弱そうにみえる。けれども目つきだけはするどくて、そこは勝負師の卵を思わせる。

 そのミムラクンはとても気さくなひとでした。我が家での対局がおわったとき、彼は疲れたのか、居間にふとんを敷いて寝っ転がっていました。当時小学生だったわたしも、そこへ寝っ転がって、―何がきっかけだったか忘れましたが―、彼と歴史についての雑談をしはじめました。
 当時「歴史マンガ」が好きだったわたしは、マンガ仕込みの日本の戦国武将や合戦の譚を披露していたのですが、それに対してミムラクンは「でも中国史も面白いぞ。一度合戦に負けた武将も、広い大陸を逃げまわってまた勢力を盛り返すことができるんだ。それが中国史の特徴だ」という。それは司馬遷「史記」の項羽と劉邦の譚で「劉邦は合戦に負けに負けたけど、最後の一戦に勝って天下をとったんだ。日本史ではありえない」という説を述べていました。わたしは小学生ながらも面白い着眼だと思い「確かにないかもしれないね。楠木正成ぐらいかな」と答えたら、また「中国ってのは広いからな。逃げれればどんだけでも逃げられる。それが政治にも影響を与える。中国ってのは面白い国だ」とミムラクンはいうのです(たしかに楚漢興亡のみならず、近代の日中戦争の展開も同じでした)。

 その日ミムラクンは「おもしろい本があるから今度貸してやるよ」と言い残して帰りました。それであとで彼に貸してもらった本が司馬遼太郎『項羽と劉邦』(新潮文庫)。それまでマンガしか読んだことがないから読むのに四苦八苦し、やっとのことで全3巻を読了しました。
 だから本をお返しするまで随分時間がかかり失礼をしました。借り物ですから本にカバーをつけて読んだのですが、すこし汚してしまったかもしれません。これがわたしの歴史本読書「ことはじめ」でした。

 さて、ミムラクンこと三村智保(みむら・ともやす)さんのその後。
 一時期はたいへんなスランプだったと聞いています。しかし彼が興味をもった百敗して天下をとった劉邦よろしく、危機を乗り越えてみごと囲碁棋士となり(現在九段)、NHK囲碁トーナメント(NHK教育テレビ)で優勝、国際棋戦でも活躍する等、とてもがんばっています。
 いまテレビや雑誌で拝見するとあの時のことを思い出します。いまから思えばあのときの彼の劉邦・中国史の解釈こそ、彼の人生観そのものの表現だったように思えます。
 今後のご活躍をお祈り申し上げます。ご参考に彼に関する読売新聞の記事を掲げておきます。

三村智保九段は2003年3月、NHK杯戦で優勝。過去に新人王戦(2度)と新鋭トーナメント戦という若手棋戦での戴冠はあったが、一般棋戦においてはこれが初のタイトル獲得となった。この優勝によって日本代表権を得たテレビアジア選手権戦でも準優勝。さらには本因坊戦リーグの初参加も決め、十代の頃から将来を嘱望されていた大器が、ついにその持てる能力を発揮し始めた感がある。突然のブレークに何か理由があるのかと聞いてみたところ、「気持ちにゆとりが出てきたことが大きい」という答えが返ってきた。「以前は"勝ちたい"というより"負けるのが怖い"、"失敗するのが怖い"という考え方をしていましたから…。僕は21歳の時に初めて名人戦リーグに入ったんですが、そんなに喜んでなかったんです。名人戦リーグ入りが決まった瞬間に、負けることを心配しているんですよ。こんなメンバーの中に入って打ったらボロボロになるとか、みっともない姿をさらしてしまうのではとか、ずいぶん馬鹿なことを考えていたんです。しかし最近は失敗を恐れず、楽しんで打てるようになってきたということでしょう。すると結果もついてくるようになりました」。三村にとって2003年は充実した年だった。「3月にNHK杯で優勝したことで、皆さんから声をかけてもらえるようになりました。それが僕の運を上げてくれているようです。」 囲碁棋士三村智保九段に関する新聞記事(2003年12月10・11日読売新聞「囲碁欄」)

(付記)今日niftyの「ココログ」ホームページ「週刊ココログ・ガイド」で過分のご紹介を頂きました。ここにて謝意を表したいと思います。「若き歴史研究人・高尾善希さんの江戸時代専門ブログ。現在と地続きな庶民の生活や習慣など、ちょっとした雑学を読む気分で楽しめます。さまざまな文献からの引用も多く、読み応えバッチリ。「歴史」というとまるで受験勉強のようなつまらなさを想定する方も多いと思いますが、ここを読むことでもっと面白く、身近に感じられることうけあいです。」

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虞美人草という花をご存知ですか。ポピーの別名です。 虞美人は呉の将軍 項羽の愛妾で、美少女ということになっています。 どんな激しい戦場へも、常に項羽と共におりま... [続きを読む]

受信: 2005/03/16 15:30

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