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2005/03/11

(大河ドラマ)「義経本」は「つまらない」?

 今年の大河ドラマは源義経が主人公ですが、わたしはいまだ一度もみておりません。歴史を研究する者として一度はみなければと思っているのですが、子どもふたりにチャンネル権を奪われ、いつも子ども向け番組のビデオばかりみています。

 それでも、書店に源義経関係の本が数多く居並ぶ光景をみて、ついつい手をのばしてしまいます。力のある歴史研究者が筆をとったものもあり、それらはどれも興味深いものばかりです。
 たとえば、①保立道久さん『義経の登場 王権論の視座から』(NHKブックス)・②五味文彦さん『源義経』(岩波新書)・③角川源義さん・高田実さん『源義経』(講談社学術文庫)の3冊があります(③のみ古い本の復刊です)。しっかりとした義経の本をよみたければこの3冊で充分でしょう。
 しかしそれでも、一般読者(ふだんは歴史に馴染みのないひと)にとっては「つまらない」だろうなあ、という感じがします。それは本の作者の責任ではなく史料の責任です。
 源義経というのは日本人にとって格別な存在です。戦の天才だが、意外に美男子で純情、同時に悲劇の人物で、霧の中の幻影のように数多くの伝説に包まれている。日本人の好きそうな人物像でしょう。しかしそれらのほとんどは後世の作り話であって、彼について確実に判明している部分はとても少ない。一般読者にとって源義経という人物への期待が大きい分だけ、歴史研究者による「本当の話」は、とても興ざめに感じられるのではないでしょうか。
 繰り返しますが、これは本の作者の責任ではなく史料の責任です。

 したがって、源義経ひとりの事績を、信頼できる史料に従って律儀に叙述しようとすれば、おそらく新書の字割りでわずか50頁くらいが関の山ではないでしょうか。これでは本になりません。それではどうするかというと(というと語弊がありますが)ふたつの書き方があります。
 ひとつめは、義経の事績に触れつつ、同時にその歴史的背景、義経をとりまく人物などを数多く取り上げることによって、義経を浮き彫りにしてみよう、という書き方(特に保立さんの本)。ふたつめは、同じように義経の事績に触れつつ、そのうえで、その義経から離れ、鎌倉時代以降「義経像」がいかに形つくられていったかを追求する書き方(特に五味さんの本)でしょう。角川・高田さんの本は、共著というかたちでうまく両者のバランスをとっています。共著というかたちをとらざるをえないこと自体、義経という人物の難しさを象徴しています。
 そうやって書くのはいいけれど、やはり「義経と弁慶の五条橋の出会いを出してくれ」という読者にとっては失望の念を隠しきれないようです。現にそういう読後感を記したブログを読むことができます。

 しかし義経を語るに「義経ひとりのことばかりを語ればよろしい」というのは、とても勿体ないことで、せまい論じ方です。
 義経はあの時代にしかも源氏の貴種として生まれてこその義経です。もしも平安時代や江戸時代に生まれたらどうだったか。違った階層社会の中に生まれればどうだったか。現代にサラリーマンの息子として生まれたらどうか。当然違った人生が待っていたでしょう。したがって義経の周囲の人間(社会)についての考察も、読者には煩瑣に思われるかもしれませんが、義経の研究にとってとても大事なことです。現代の我々にしても、まさに現代のこの社会に生きているからこそ〝我々〟たりえるのであって、人体の生理だけがひとの性格を決定しているわけではありません。「当たり前じゃないか」といわれるかも知れませんが、普段の生活でそんなことは意識しません。それを浮かび上がらせるのが歴史学だと思っています。
 また実態としての義経だけが義経ではありません。ふだん我々も日常的に感じているように、自分のイメージする自分と、他人がイメージする「自分」とが、食い違うことはよくあります。他人から誤解されて受けとめられる「自分」も、不本意ながら自分の一部として認めざるを得ません。よって誤解される「義経」(物語上の義経)も大事な義経の一部には違いない。これも「当たり前」のことですが、そんな哲学的なことは普段考えないでしょう。
 歴史学はいろんなことを教えてくれそうです。

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