(学位)博士のみちはコンセントから
400字詰原稿用紙にして700枚にもおよぶ「博士(文学)学位請求論文」の執筆。「今までの苦労が走馬燈のように……」といいましたが、わたしのささいな苦労話をひとつ。みなさんにとって、どれほど意味があるかはわかりませんが。
700枚の文章を書くといっても、ぶつ切れの日記やエッセイの寄せ集めとはわけが違います。博士論文とて論文の寄せ集めであるにしても、一方で、論旨の一貫性を保たねばなりませんからたいへんです。トランプ・タワーの積み上げのように、精密に書いていかないと、途中で崩れてしまうかもしれない。そのため、その執筆はかなり骨の折れる作業で、かなり時間も費やします。
まず、執筆するには、仕事のおわる6時以降、深夜まで執筆できる環境がなければなりません。必須の執筆道具はノート・パソコンです。これが深夜まで使えるスペースを確保する必要があります。パソコンのバッテリーはすぐに電気が切れてしまう。そのためコンセントが繋げる場所が何としても欲しい。
職場はすぐ閉まってしまうので居残りはできません。家に帰っても子どもがいます。また、都内にある出身大学の図書館が便利そうですが、コンセントを使っていいスペースが少なく(現在は新しい図書館が建設され、コンセントも多くて便利になりました)、書籍はあるけれども不便。しかも、夏休み等の長期休みは開館日が限られているし、おまけに夜になると早く閉まってしまうのです。大学の研究室などの設備をもたないわたしにとって、まずコンセントが悩みの種だったのです。
そこで、わたしは喫茶店が好きなので、喫茶店で執筆することにしました。好きな場所でやるのが精神衛生的によいと考えました。勤務のおわった6時以降、東京の新宿を徘徊し、コンセント使用可の喫茶店(例えば「ルノアール」)を複数店探すことから始めました。……なぜ複数店かというと、①1店だけに長居するのも店員に迷惑、こっちも気がひけてしまう、②店のコンセントの数は限られていて先客がいたら使えない、③時には店を違えて気分転換をするため(知的労働にはこれが意外と重要)、という理由です。
それで、コンセント使用可の店を3・4店以上、みつけました。最近の喫茶店は、客の長居を嫌うためか、コンセントを貸さないところが多く、ずいぶんウロウロしました。途中大学の先輩にばったり出会って、ずいぶん不審な顔をされました。
それで喫茶店にて夜10時くらいまで執筆しました。毎日そんなことをやっていると鬱屈します。ほかの客がうるさかったり、いやな煙草のケムリが流れてくると、何が何だかわからなくなってしまう。独り言も多くなります。「うーん、違うなあ」とか、「おれ、馬鹿だなあ」とか。ヘンな客だったのではないかと思います。
看護婦をやっていた女房から「あなた、そんなことやってたら死ぬよ」といわれましたが、おかげさまで、何とか生きながらえております。
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コメント
喫茶店でコンセント使用の苦労、すごく共感できました。
ほんとですよね・・・なかなか使わせてくれるところってないし、ルノアールくらいの高価な場所になればいいところも多いと思いますが。
確かに、喫茶店で文章を練るのはいいですよね。私もかつてはよくやっていました(^-^)
投稿: かず | 2008/07/18 18:53
喫茶店でくつろぐのが好きなんですよ、わたし。モバイル型ノート、廉価になりましたね! 欲しいな~と思っています。それを喫茶店で使いたい!
投稿: 高尾 | 2008/07/20 22:05