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2004/12/13

(古文書入門④)くずし字字典、どれがいい?

 「何か勉強をはじめたい」というとき、一念発起のエネルギーから、特に〝気合い〟が入りがちです。それで、「ヨシ、勉強するぞ」と、とりわけ分厚い難しい本等を買い込むわけですが、ところがどうしたことか、「さあ、はじめよう」と思った途端、眠たくなってもう勉強する気が起こらない……、そんな経験はありませんか?(少なくともわたしは幾度となくあります)。それはたぶん、いきなり分厚い難しい本なんか買うからいけないのでしょう。強い信念があればあるほど、最初は気楽に、だらだらと始めたほうがよいようです。それに、初心者には初心者の勉強方法がある、と考えた方がいいのではないでしょうか。

 「古文書勉強したいんですけど、くずし字字典は何がいいでしょうか?」というご質問が多いので、ここではそれについて、わたしの意見を述べてみたいと思います。実は、「字典は何がよいか?」という疑問について、答えてくれる情報はあまりありません。だから、―私見ではありますが―、ここで話しておく価値はあると思います。
 おそらく、初心者には、林英夫編『増訂 近世古文書解読字典』(柏書房、1972~)が一番よいと思います。1972年に第1刷が出され、わたしの手持ちの本は「1997年第32刷」です。だからもう30年以上にわたって刷を重ねる、大ロング・セラーであるわけです(どうでもいい話ですが、わたし1974年生まれなので、この字典の方がわたしより年上ですね)。わたしは柏書房のまわしものではありませんが(柏書房の本をちょっと執筆したことはありますが)、これは本当にいい字典だと思います。
 この字典の何処がよいかというと、①ひとつめに、とても薄くてハンディなことです。全体で387頁しかありません。「Ⅰ 史料編」が5頁~68頁まで、「Ⅱ 用例編」が71頁~126頁まで、「Ⅲ 文字・熟語編」が131頁~312頁まで、「Ⅳ 参考資料編」が314頁~349頁まで、「索引」が350頁~387頁まで、という内訳です。この中の「Ⅲ 文字・熟語編」が字典の機能をもっている部分です。薄い! これは心理的圧迫を受けずにすみます。②ふたつめに、とても廉価だということ。わたしの手持ちのものでは「2524円+税」という直段表示です。大学でこの本をテキストにしたことがあるのですが、学生たちの反応は「えー、高い!」でした。そんなことはありません、一生ものですから。③みっつめに、字の解説ばかりではなく、熟語の用例まで載せてあり、親切なことです。これは便利です(実は、くずし字というのは、一文字だけでは判定できないことが多いのです、これについてはいつか述べてみたいと思います)。
 もちろん分厚い字典でもいい字典はたくさんあります。たとえば、その筆頭格が児玉幸多編『くずし字用例辞典』(東京堂出版、1981~)でしょう。これは字の用例も熟語の用例もマンモス級で、約1300頁にも及ぶすごい字典です(近藤出版社に版権があったとき、同社の社長さんが、表題と索引以外はすべて手書きで書いた、という信じられない本。手にとってご覧下さい)。しかし「普及版」でないと持ち運びできません。優秀な字典ですが、浩瀚すぎて初心者には使いこなすことは難しいでしょう(したがって「優秀な字典=初心者に優しい字典」とは限りません)。くずし字にある程度慣れたら買うべき本です。そのときには、とても頼りになるでしょう。

 だから、勉強のはじめは、やはり林英夫編『増訂 近世古文書解読字典』(柏書房)だと思います。ただし、柏書房はこの手の字典をシリーズで出していますから、似通った表題の本が多いのです。買い間違えにご注意ください(この字典、わたしの所属していた大学の古文書研究会でも使用しているのですが、毎年買い間違える新入学生がいるのです……、ご注意!)。

(付記) ここでいう「古文書」とは近世文書のことをさしています。それ以前、古代・中世文書の勉強法等に関してはここでは触れていません。ちなみに、わたしが持っている字典は、先にご紹介した『増訂 近世古文書解読字典』『くずし字用例辞典』に加え、『新編古文書解読字典』(柏書房。載っている字数も程よく多く、用例も厳選されている、なかなかのスグレモノです。知る人ぞ知る、使ってみればよさがわかる字典です)の3冊です。これ以外の字典を買ったことがありません。またこれ以外の字典をあまり使うことはありません。
 以上はあくまで私見です。使いやすい字典はひとによって様々だと思います。ほかのご意見をお持ちの方はコメントをお寄せください。

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コメント

私は茶の湯の勉強に、先生をお迎えして年に何度か古文書読んで当時の事を学んでいます

書き手によって字の癖もありますが、楽しみながら少しずつ馴染む様にしています

何でも歴史を知るには昔に文献が必要になってきますが、文字を読むのがネックになってきます
かなり悪戦苦闘しています
お勧めのもの 見てみます

投稿: タオ | 2005/01/17 13:55

タオさん、コメントありがとうございます。どうぞ、みてみてください。ただ、ひとによって向き・不向きはあると思います。最近はいろいろな字典が出ているようで、わたしはそれらをよく把握できていません。ちょっと較べてみてください。

投稿: 高尾 | 2005/01/17 22:41

やはり定番は児玉さんの『くずし字用例辞典』になるのでしょうか。私の大学の日本史専攻者は全員これを使っています。しかし、手書きだったとは!

投稿: 歴史学科生 | 2005/04/19 01:48

『くずし字用例辞典』はいろいろな時代の用例があり、汎用性がありますね。わたしも最近はこれを愛用しております。

投稿: 高尾 | 2005/04/19 07:55

はじめまして。
私のブログにご発言いただき、ありがとうございます。
こちらこそ、よろしくお願いいたします。
なお、リンクは、「専修大学の舘鼻誠」と実名を出されてかまいません(歴史系ブログは、実名が多いですね)。

なかなか充実したブログですね。
林英夫先生、たいへんなつかしい先生です。
実は、私は、学部・大学院とも立教でして、林先生にもいろいろ教えていただきました(指導教授は藤木久志先生です)。

しかし、いまも古文書は、すらすらとは読めません(古文書学の講義も何度も担当しているのにお恥ずかしい)。

もうずいぶん前、奈良県の旧家の文書を整理をし、このうち中世と近世初頭の文書は、科研費の報告書「中世庄屋史料の研究」にまとめたのですが、結局、どうしても読めない文字が数箇所残ってしまいました。
最近は、文書よりも、石塔ばかり見ています。

ちなみに私は、児玉さんの辞典を愛用しています。
古文書をまじめに勉強したい学生にも、この本を薦めています。
途中で飽きても、てごろな枕になります。

今後も、さまざまな情報をご教示ください。

投稿: 舘鼻誠(侍大将まこべえ) | 2005/06/16 22:31

コメントありがとうございます。
林英夫先生はわたしにとって特別な方です。一度しかお会いしたことはありませんが、『近世古文書解読字典』の読者であることによって、限りない学恩を蒙りました。お会いしたのは、柏書房の『番付で詠む江戸時代』の編集会議でした。感無量の思いでした。
専修大学にお勤めとのこと。専修大学といえば、青木美智男先生にも、学会でお世話になりました。よく「ばか」と怒られましたが、ずいぶん優しくして頂きました。
サイトの石塔の写真、すがたがとてもいいですね。近世のものと異なり、自己主張もなく、とてもすっきりしているように思えます。中世人の気持ちの一端に触れる気分がします。
こちらこそいろいろご教示ください。

投稿: 高尾 | 2005/06/17 08:25

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