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2004/11/18

(言葉)「御江戸」用例再考~いつから「御江戸」か?~

 「御江戸」という言葉は、いつ頃から使われていたのでしょうか。少々私見を述べたいと思います。
 江戸研究者西山松之助さんは、「御江戸」の初見(史料上で確認される最も古い事例のこと)を、元和4年(1618)「竹斎」、「形は色々品川や、渡ればこゝぞ武蔵鐙、懸けて思ひし糸桜、花のお江戸に着にけり」であるとします(もうこの頃から「花のお江戸」という文句があるのです)。2例目は、その約60年後の延宝8年(1680)「元のもくあみ物語」、「お江戸は近しと悦びて」である、とします。
 西山さんはこの2例の60年の開きから「こういうかたちで、お江戸と呼ばれはしたが、それはごく一部の人たちのことであって、(17世紀には)一般には普及しなかった」といいます(西山『江戸ッ子』吉川弘文館、1980)。
 ところが、わたしがみたところ、 ふるい「御江戸」の例はたくさんあるのです(わたしの専攻が村落史ですので、村落史史料からも拾ってみると……)。

寛文2年(1662)8月 「返答書相認年寄百姓召連御江戸江罷出候処」―武蔵国埼玉郡平戸村文書
寛文2年(1662)11月 「御江戸ニ瓜といや二間名主九郎兵衛相定」―武蔵国多摩郡小川村文書(同史料には「御江戸」が何カ所も出てきます)
寛文8年(1668) 「見渡せば柳原やけ桜田やお江戸の春のこじきなりけり」―寛明日記
 などがあります(17世紀の事例はまだ他にもあります)。
 したがって先の西山さんのお仕事と合わせると、①元和4年(1618)、②寛文2年(1662)8月(上記A)、③寛文2年(1662)11月(上記B)、④寛文8年(1668)(上記C)、⑤延宝8年(1680)、という順番になるわけです。すなわち、「御江戸」は17世紀には普及しなかった、とする西山さんの意見は再検討の必要があります。随分ふるくから一般的に使われた言葉なのではないでしょうか。
 内容が寛永末年(17世紀中頃)まで下るという(注1)「慶長見聞集」は、江戸を「天下を守護し将軍国王ましますところ、などか都といはざらん」と評価します。この意識が「御江戸」ということばの使用に繋がると思われます。まだ古い用例がほかにあったらご教示ください(注2)

(注1)「慶長見聞集」成立時期は水江漣子さんの研究書『江戸市中形成史の研究』によります。
(注2)ここで紹介した諸事例は竹内誠監修『都市江戸への歴史視座』(名著出版、刊行準備中)所収の拙稿に紹介してあります。

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コメント

とても興味深く拝見しました。新刊で、もうすぐ全貌が明らかになるわけですね\(^O^)/ 楽しみにしています。

ところで、ランキングの表示をクリックするとカウントされるということに、たぶん多くの方がお気づきでないのでは?もっとハデに、クリック推進を宣伝しましょ〜q(^_^)P

投稿: くま | 2004/11/18 14:57

 本には、ここでお話したこと以外のことは、特にありません。本より先に紹介してしまいました。
 家康が駿府に死去したのが元和2年(1616)、参勤交代の制度・重臣の子弟を証人として江戸におくことを明文化した「武家諸法度」が寛永12年(1635)、はじめての江戸在府のままの将軍宣下(家綱)が慶安4年(1651)……という経緯から考えて、17世紀中頃には江戸=ミヤコ意識がめばえていたのだろう、そのことと「御江戸」用例とは関連性がある、と考えています。
 宣伝、そうですね。孤島になってしまうと、寂しいですからね。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/18 21:44

はじめまして。
いつも楽しみに拝見してます。
こんな面白くてためになるブログを孤島になってさせやしません!
来るたびに忘れずクリックします。

投稿: ラン2 | 2004/11/18 23:25

ラン2さん、コメントをありがとうございます。こんなマニアックなHPをどなたが御覧になっているのか、たいへん興味があります。ランキングは高くありませんが、アクセス数はまずまずなのです。おかげさまで、カウントもはや江戸時代に突入しました(1600年代に)。これからもよろしくお願いします。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/19 08:54

 リンクをひいて頂きありがとうございました。当方も「マックとクーな日々」「平安京探偵団」のリンクをひかせて頂きました。「平安京探偵団」は充実していますね。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/19 15:35

平安京探偵団までリンクをしてくださり、ありがとうございます。
とても、とてもうれしいです!
これからも勉強させてもらいます。
古文書、大好きです。
市民講座で、2年ほど村方文書を学びました。
江戸時代の人たちの生活が、身近に感じられて楽しかったです。
今は、中世文書に夢中です♪

投稿: マック | 2004/11/20 18:10

学生時代、熱中して読んだ佐藤進一『古文書学入門』。近世以前の文章に出てくる単語を、カードにして覚えていたことがあります。ときどき音読してみたりもしました。特に近世以前の文章は、音読すると気持ちがいいですね。古めかしい、何ともいえないおもむきがあります。

何れどこかの学会でお会いしましょう。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/21 10:29

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