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2004/11/15

(言葉)「御江戸」は「御」はオンリー・ワン?

 「大江戸」とともに「御江戸」という言葉があります。江戸研究者西山松之助さんによれば、地名に「御」をつけるのは江戸だけなのだそうです。しかも、敬称付きで呼ばれる地名は世界で唯一である、と指摘します。これは西山さんがいろいろなところ言及していることです。碩学にはっきりと世界に「ない」といわれると、「そういわれれば、そうかもなあ」という気持ちがあります。しかし、その一方、「本当だろうか」と疑いたくなる気持ちも、すこしあります。

……世界中の都市のなかで、その町名に敬語の『お』をつけて呼ぶのは、江戸のほかにはなかろう。このことは、江戸町人研究会だけでなく、私はいろいろな方に尋ねてみたが、今のところ類例はない。江戸だけがお江戸と呼ばれた。……(西山『江戸ッ子』吉川弘文館、1980)
 続けて、①「御用」「御林」「御普請」等の場合と同じように、御江戸の「御」は将軍への敬意を表している、②「み吉野」「み熊野」という言葉もあるが、それは文学的美称であろう、ともいいます。
 では「御伊勢参り」の「御伊勢」はどうでしょう。これは伊勢神宮を指しているのであって、地名に「御」を冠しているわけではない、と解釈しましょう。「大日本帝国」「大韓民国」等の「大」もありますが、これは国号ですから、御江戸とは同列にできません。すると、西山さんのいうとおり、敬称付きの地名は江戸だけなのでしょうか? ……これについて何かご見解をお持ちの方はご教示ください。
 ちなみにわたしの調べでは、川柳に「江戸 御の字の付た所は江戸計り」(三田村鳶魚『未刊随筆百種』第10巻<中央公論社、1977>「京江戸自慢くらべ」)というのがあります。江戸時代人も「『御』の字の付いた所は江戸だけ」という意識をもっていたようです。

(注1)話はだいぶ違いますが、北朝鮮の国営放送のアナウンサーは、平壌(ピョンヤン)という地名をよむとき、語尾を消さず、尊敬をこめてはっきり読むことが義務付けられています。国家のあるじのいる場所は神聖だとされているからです。地名に敬意をこめるという発想はここにもあります。

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コメント

いつも「江戸ネタ」をありがとうございますm(_ _)m

以前、西洋史の先生に「西洋で、敬称のつく都市ってありますか?」と聞いてみたところ、「ない」とのご回答でした。今度、東洋史の先生にも聞いてみますね。

そもそも、「江戸は当時世界で唯一の100万都市」という言い方も、本当かどうか・・・?と、以前林玲子先生がおっしゃっていましたし。西洋世界だけでなく、中国など東洋の国々も視野に入れた上での「世界一」なのか、怪しいもんだとのご指摘でした。

そして、「江戸ッ子の初出がさかのぼれたら、誰にも教えず、いきなり論文を書いて、そこで発表して下さいね。楽しみにしています(^_^)v

投稿: くま | 2004/11/16 01:41

当然、「アル」ことを証明するより、「ナイ」ことを証明するほうが、はるかに難しいですよね。「ナイ」ことを証明するには、「アル」可能性を、ほとんど無限大に潰していかなければならない……。「世界にナイ」ことを厳密に証明しようとするなら、本当にないか、世界中を歩き回らなければなりませんね。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/16 20:53

またお邪魔します、弓木です。
「お」のつく地名…って、「お台場」とかはダメなんでしょうか? あれは「都市」ではないからダメ?
あるいは若狭「小浜/オバマ」とかの「オ」にしたって、もとは「小さい」ということでなく、地名につく「接頭辞」だったと思いますが…? (しばしば言われることですが、日本語地名の漢字表記は「後追い」でついたもので、ほんらいの意味とは無縁の場合がよくあります)
もっと「都」的なところを求めるなら、「飛鳥/アスカ」っていうのもある。「オ」じゃないけど。この「ア」もやはり接頭辞です。つまりこの構成は「ア+スカ」。スカは古朝鮮語の「小さな家」かな? スガ・ソガとも同じはずです。
もっともそれを言うならば、ここでも例に挙げられてる「み吉野」の「み」にしたって、敬称の接頭辞だと思いますが…。これと「お江戸」の「お」っていうのは、同じ性質のものじゃないでしょうか?
なお世界に-ということで言うのならば、そもそも「敬称の接頭辞」を持ってないとダメなわけで、その文法的条件から、範囲はかなり限定されてしまうでしょう。
ところでサンスクリット圏には、「スリ=聖なる」のついた地名なら山ほどあります。スリ=ランカーとか、スリ=ジャヤワルナとか。こういうのはハズレですか?

あと大人口都市というと、むかし謝世輝『第三の世界史』で、中国広州市は江戸より人口が大きかったと読んだような記憶があります。数字まで覚えてなくてすいませんが。

ちょっと屁理屈っぽくなりました。すいません。


投稿: 弓木 | 2004/11/19 01:38

 コメントありがとうございます。
 「大山」も「御山」から転訛したといい、似たような逸話をもつ地名は、まだ数多くあると思います。しかしここで問題はふたつあります。
 ひとつは、地名の由来を正確に実証することはほとんど難しい、ということです。飛鳥の地名の由来にしても、諸説あってよくわかっていません。歴史学では、仮説で議論する場とそうでない場を区別する必要があります。
 ふたつめには、もし真実「御」から転訛した地名であったとしても、一般名詞→地名化(つまり固有名詞化)という変遷も考慮しなければなりません。たとえば、ふるいむかしに一般名詞として「御山」と呼ばれ、やがて「大山」となった経緯が実証されたとしても、「大山」の段階では地名化しているため、「御江戸」の事例と同列にすべきではないでしょう。また、それとよく似た事例として「御台場」があります。最初は「公儀の普請した大砲の台」という一般名詞でしかありませんでしたが、明治以後、ほとんど地名と意識して使われ、現在では完全に地名化していますね。
 それでゆくと、「御江戸」は特殊だ、と西山松之助さんはいいたいのだと思います。

 ただし、「み吉野」やサンスクリットの「スリ=聖なる」の場合については、わたしもよくわかっていません。専門の方がいらっしゃったらご教示ください。

投稿: 高尾(管理人) | 2004/11/19 08:38

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